第3章 相続財産の調査
1 被相続人の身分関係の調査(相続人の調査)
この点は要するに、相続人が何人いて、それぞれの法定相続分はどの程度か、という問題です。
依頼者の方がご存じないだけで、実は相続人が他にもいた、というケースは枚挙に暇がありません。万が一法定相続人を除外して遺産分割協議を行った場合、当該遺産分割協議は無効になりますので、相続人の調査は慎重に行う必要があります。
具体的には、被相続人の除籍謄本から始まって、相続人が存在しないかどうか、戸籍謄本を遡っていくことになります。まずは、被相続人の子供がいないかどうかを確認するために、被相続人が15歳くらいの戸籍まで遡っていかなければなりませんし、場合によっては甥や姪が相続人となるケースもありますので、調査の範囲が相当広範囲になることも少なくありません。また、戸籍の調査とあわせて各相続人の現在の住所も確認する必要があるので、戸籍の付票を取得する必要があります。
2 相続財産の調査
1 不動産
被相続人名義の不動産の所在が明らかな場合には、管轄の法務局で当該不動産の登記簿謄本を取得することになります。
もし、被相続人名義の不動産が存在することは明らかだが、どこにあるかわからない、という場合には、当該不動産が存在すると考えられる市区町村の資産税課に「名寄帳」(なよせちょう)を申請する方法があります。この名寄帳には、当該市区町村内に存在する同一名義人の不動産(未登記物件含む)が全て記載されているので、被相続人名義の不動産の有無が確認できるのです。相続財産の調査には非常に便利なのですが,地方自治体によっては存在しない場合もあります。
2 預貯金
預貯金に関する具体的資料(通帳等)があれば、当該金融機関に対して相続時の残高証明書を申請することになります。また、生前、あるいは死後に不正に預貯金が引き出された可能性があるのであれば、相続の前後を通じての取引履歴を取得する必要があります。この取引履歴については、以前は相続人全員の同意がないと開示しない、として金融機関によっては開示を拒否されることがありましたが,今日では拒否されることはほぼないと言えます。
関連する法律相談
遺産たる預貯金の取引履歴の開示請求
3 生命保険金等
「被相続人が契約していた生命保険金の遺産分割について」で述べたように、生命保険金については遺産に該当するかどうかはケースバイケースです。ただし、仮に遺産に該当せず、特定の相続人が取得するにしても、遺産分割協議に影響を与える可能性がありますので、調査をする必要があります。具体的には、預貯金と同様、各保険会社に対して照会をすることになります。
関連する法律相談
遺産が使途不明金によって減ってしまっている場合は?
3 遺言の存在の調査
遺言書にはいろいろな種類がありますが、相続人において調査・検索が可能なのは、公正証書遺言です。
公正証書遺言については、日本公証人連合会において遺言検索制度が運用されていますので、平成元年(東京都内は昭和56年)以降に作成された公正証書遺言であれば、検索が可能です。
なお、公正証書遺言の検索については、相続人等利害関係人だけが可能となっています。
4 特別受益、寄与分の調査
相続人の中に被相続人から特別の利益(特別受益)を受けた人がいる場合、あるいは相続人の寄与(寄与分)によって被相続人の財産が増加した場合などは、具体的相続分の算定に際して影響があります。
そこで、可能であればその点について調査をすることになりますが、そのような特別受益や寄与分については、当該特別受益等を受けた本人以外には事実関係が明らかでないことが多く、事前の調査が困難なこともあります。また,特別受益の持ち戻しについては特に期限の制限がないことから,相当古い贈与についても調査しなければならないことが多く,その意味でも調査が難しいと言えます。
関連する法律相談