これに対して、遺留分権利者は、相続人であることを前提としているので、相続放棄をした人、相続欠格者等は遺留分権利者とはなりません。
また、民法1031条は「遺留分権利者及びその承継人」が遺留分減殺請求権を行使することが出来る、と定めています。この「遺留分権利者の承継人」とは、具体的には遺留分権利者の相続人や、個別的な遺留分減殺請求権を譲り受けた者を指します。
総体的遺留分割合というのは遺留分権利者全体が有する遺留分割合
のことです。個別的遺留分というのは、総体的遺留分を法定相続分で配分した
ものです。
総体的遺留分割合は、
(1)直系尊属のみが相続人である場合は、相続財産の3分の1
(2)その他の場合は相続財産の2分の1です(民法1028条)。
たとえば、被相続人に配偶者も子もおらず、ご両親だけが相続人の場合、ご両親それぞれの遺留分割合は
1/3(総体的遺留分割合)×1/2(各自の法定相続分) =1/6
ということになります。
また、被相続人に配偶者Aと父親Bがいた場合、それぞれの遺留分割合は以下のとおりとなります。
A:1/2(総体的遺留分割合)×2/3(配偶者の法定相続分) =1/3
B:1/2(総体的遺留分割合)×1/3(直系尊属の法定相続分) =1/6
かなり複雑ですね。
遺留分算定の基礎となる財産は、
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額 (遺贈した財産の価額を含む)
+民法1030条の要件を満たす贈与の価額
-債務の全額
という方法によって計算されます(民法1029条)。
ここで「民法1030条の要件を満たす贈与」とは具体的には、
(1)相続開始前の1年間にした贈与
(2)当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与
の2つを指します。
(1)は明確ですが、(2)における「遺留分権利者に損害を加えることを知って」とは、判例によると「加害の意思」までは必要なく「客観的に損害の認識を持っている」という意味であるとされています。具体的には「遺留分を侵害する事実関係を知っていること」「将来において被相続人の財産が増加することはないとの認識を持っていること」が必要とされています。
たとえば、贈与から相続開始までに長期間が経過している場合には、その間に被相続人の財産が増加する可能性がありますから、この「客観的に損害の認識を持っている」とは評価されない場合が多くなるでしょう。
相続人に対する生前贈与は、相続開始から1年以上前にしたものであっても遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、かつ遺留分減殺請求の対象となりますか
自分の遺留分が侵害されていると考える遺留分権者は、誰に、どのような方法で、何を請求できるのでしょうか。
自分の遺留分が侵害されていると考える遺留分権者は、減殺請求の対象となる遺贈及び贈与を受けた人に対して、遺留分減殺請求権を行使することになります。この減殺請求権は必ずしも裁判による必要はなく、内容証明郵便による意思表示で構いません(最判昭和41年7月14日)。
仮に裁判所に対して申立をする場合、遺留分減殺請求事件は、家事審判法9条に審判事項として列挙されていませんから、家事審判事件ではなく、地方裁判所に一般の民事訴訟を提起する方法によることになります。
もっとも、遺留分減殺請求事件は、家庭に関する事件(家事審判法17条)として、まずは調停を提起する必要があります(家事審判法18条)から、地方裁判所に裁判を提起する前に家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。
減殺請求の対象となる遺贈や贈与が複数ある場合、どのような順序で減殺請求を行うべきか、という点については法律に定められています。
ア 遺贈と贈与
遺贈と贈与が存在する場合、遺留分権利者はまず遺贈を減殺した後でなければ、贈与を減殺することは出来ません(民法1033条)。なお、この規程は強行法規と解されており、遺言でこれと異なる指定をしたとしても、そのような指定は無効です。
イ 複数の遺贈がある場合
複数の遺贈がある場合、遺贈間での先後関係はなく全部の遺贈がその価額の割合に応じて減殺されることになります(民法1034条)。ただし、遺言者が、遺言で別段の意思を表示したときには、その意思に従います。
ウ 複数の贈与がある場合
複数の贈与がある場合,新しい贈与(日付が後の贈与)から減殺し、順に前の贈与に対して減殺がなされることになります(民法1035条)。この規程は強行規定であると解されています。
エ 遺留分権利者の選択権
複数の遺留分減殺の対象がある場合に、遺留分権利者においてその対象を自由に選択できるか、という問題がありますが、この点について判例は消極的に解しています(最判平成12年7月11日)。
遺留分減殺請求権を行使した後の,減殺請求権者と被請求者との関係はどうなるのでしょうか。
例えば、被相続人が唯一の遺産である不動産を、ある特定の相続人Aに「相続させる」遺言によって相続させたケースで、当該遺贈について別の相続人Bが遺留分減殺請求権を行使した場合を考えてみます。
遺留分減殺請求権を行使することによって、遺留分を侵害する遺贈はその限度において効力が失われ、当該財産は減殺者のもとに取り戻されることになります。その結果取り戻された財産についてどのような法律関係が形成され、それを解消するためにどのような方法によるべきか、という点が問題になります。
これらの点については2つの説があります。
1つは、取戻財産は減殺請求権者と受遺者の共有となるから、共有物分割によるべきであるという説(訴訟説)です。 もう1つは、取戻財産は、相続人全員の遺産共有となるから、遺産分割によるべきであるという説(審判説)です。
この点について統一的な見解を示した最高裁判決はありませんが、最高裁平成8年1月26日判決は、特定遺贈と、共同相続人の1人に対する全部包括遺贈については、訴訟説を採用することを明らかにしました。
ただし、それ以外の一部の財産の包括遺贈や相続分の指定についてはこの最高裁判決は及びませんので、訴訟説と審判説の両説がありうることになります。したがって、先ほどのケースで言うと不動産が特定遺贈されたケースですから、遺留分減殺請求の結果、当該不動産についてAとBの共有状態となり、当該共有状態の解消のためには、共有物分割手続(民法256条以下)によることになります。
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから、1年間これを行使しないとき、または相続開始から10年間を経過した後は消滅します(民法1042条)。