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内縁配偶者に相続権はありますか

内縁配偶者に相続権はありますか

Q

私の夫が先日亡くなりました。
私は、夫と籍を入れておりませんが、夫と30年間宝石商の商売を共同経営してきました。宝石商の収益で、今住んでいる土地と家を買いました。土地と家は、いずれも夫名義になっています。また、宝石商の収益は、夫名義でA銀行に預金しています。
夫の遺言はありませんが、私は妻として30年間も夫と一緒に暮らし、しかも共同経営者として夫以上に努力をして事業を繁盛させ、その結果として財産が出来たのですから、夫の財産は、当然私が取得できると思っています。
ところが、夫の兄が(夫の両親は既に他界していますので、夫の兄が唯一の相続人になります)「内縁の妻(私のこと)には相続権がないので、夫名義の土地と家、A銀行の預金は、全て自分が相続する」と言い始めました。
私は、夫名義の土地、家、A銀行の預金を一切もらうことはできないのでしょうか。

A

(1)内縁配偶者の相続権
あなたとあなたの夫のような内縁関係の場合は、婚姻の届け出がないために法律上の夫婦とは認められませんが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む夫婦 共同生活体であるという点では、婚姻関係と異なるものではありません。そこで、内縁関係についても、婚姻関係に準じるもの(準婚関係)として扱われています。たとえば、社会保障の意味合いを持つ遺族給付(労災における遺族補償、厚生年金における遺族年金)などにおいては、法律上の配偶者と同等の保護を受け ることが出来ます。
しかしながら、相続の場面においては、残念ながら内縁配偶者には相続権がないとされています。
また、判例は、内縁関係の死亡解消に財産分与(民法768条)の規定の適用は無いとしています(最判平成12年3月10日)。

したがって、内縁配偶者であるあなたには、夫の相続権はありません。

(2)実質的共有財産としての権利主張
先ほど述べましたように、相続人としてあなたが夫の財産を相続することは出来ません。
しかし、事業を共同経営していた本件のようなケースについてまであなたに全く権利が無いという結論はあまりに酷です。
そこで、家業に専従しその労働をもつて夫婦の共同生活に寄与している場合ではなく、あなたのように、夫婦が共同して家業を経営し、その収益から夫婦の共同 生活の経済的基礎を構成する財産が形成された場合には、残された財産について、被相続人と内縁配偶者との実質的共有財産として、残された内縁配偶者の権利 を守ることが出来る可能性があります。

例えば、裁判例(大阪高判昭57・11・30判タ489号65頁)において、内縁の夫婦が 共同で呉服商を営んでおり、その収益で購入した不動産は、その登記簿上の所有名義人が夫とされていても、夫婦間においてこれを夫の特有財産とする旨の特段 の合意がない以上夫婦の共同財産となるとし、残された妻の共有持分は、死んだ夫の共有持分と均等であるとして(民法250条)、2分の1である、とした事 例があります。

また、夫婦双方の収入を生活費にあて、余裕のあるときは内縁の夫名義で預金していた事案で、その預金を夫婦の準共有(持分各2分の1)であるとした裁判例(名古屋高判昭58・6・15判タ508号112頁)もあります。

(3)本件の検討
本件におけるあなたの夫名義の土地・家・A銀行の預金ですが、あなたとあなたの夫とが共同で宝石商を営んできた収益を元に築いた財産ということですので、あなたとあなたの夫の共有財産ということになる可能性があります。
その場合当該財産を築くのに、あなたが2分の1以上寄与し、かつそれを十分に証明できるのであれば、あなたの持分は2分の1以上となりますが、証明不十分であれば、民法250条に従い、持分は2分の1となります。
そうすると、夫名義の財産のうち2分の1はあなたの財産、残り2分の1が夫の財産(遺産)ということになりますので、夫の兄はこの夫の財産(遺産)部分のみを相続することなり、すべて夫の兄が相続するものではないということになります。

以上より、あなたには相続権はなく、したがって夫名義の遺産を全て取得できるということにはなりませんが、夫婦が共同して家業を経営し、 その収益から夫婦の共同生活の経済的基礎を構成する財産が形成されたと認められる場合には、夫名義の土地・家・A銀行の預金の各2分の1について、あなた の共有持分権が認められる可能性があります。

(4)具体的な手続の進め方
ア 夫の兄と話し合いが可能な場合
夫の兄と話し合いが可能な場合には、話し合いをするか、家庭裁判所に一般調停を申立て、不動産とA銀行の預金について共有持分権を主張して具体的な分割案の調整手続きを進めます。
その際は、あなたが不動産を全部取得して、夫の兄に代償金を支払う内容の分割案を提案することが考えられます。

イ 話し合いが不可能な場合
夫の兄があなたのいうことに聞く耳を持たず、夫名義の財産の相続手続を進めようとしている場合には、あなたは、夫名義の財産について、あなたの共有持分権があることを確認する訴訟を起こさなければなりません。

(5)まとめ
以上述べましたように、内縁配偶者には相続権はありませんし、場合によって共有持分が認められる場合があると言ってもかなり限定的な場合に限られます。
そこで、一方の死亡後、残された内縁配偶者に遺産を取得させるためには、生前に遺言書を作成したり、生前贈与をしておくことが極めて重要です。

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