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相続人に未成年者がいる場合の処理はどうしたらよいのでしょうか

相続人に未成年者がいる場合の処理はどうしたらよいのでしょうか

Q

最近夫が亡くなりました。相続人は、私との息子2名(18歳と19歳)です。
夫の財産は、現在私達家族3名が暮らしている家と土地,400万円の預貯金で、家のローンが1200万円残っています。
家族会議の結果、家と土地は私が取得することにし、預貯金は子供達2名で分けることにしました。家のローンは私と子供達が3分の1ずつ負担することにしました。
自宅土地・家の登記名義を夫から私に移すには、遺産分割協議書を作成しなければならないと聞いています。また、いずれ子供達も結婚して家を出るでしょうし、きちんと遺産分割協議書を作っておこうと思います。

(1)子供達は未成年で私が親権者ですから、子供達に代わって私が遺産分割協議書の署名・押印をしてもよいでしょうか。
(2)もう子供達に代わって遺産分割協議書に私が署名・押印をしてしまいました。この遺産分割協議は無効でしょうか。
(3)私は法律のことは全然わかりませんし、後から子供達との間でもめることになるのも嫌なので、私と子供達の相続について、まとめて一人の弁護士さんにお願いすることにしました。これなら、私たち家族の遺産分割協議に問題はないですか。

A

(1)について
親権者である父母は、未成年者の子の財産に関する法律行為について、法定代理人として代理行為をすることができます(民法824条)。
しかし、未成年者の子の父母は、自分達の利益と子の利益とが対立する行為(法律上「利益相反行為」と言います)について、子の代理行為をすることはできま せん。父母が自分達の利益を優先し、それによって子が害されるおそれがあるからです。法律行為が利益相反行為に該当する場合には、親権者ではなく、家庭裁 判所が選任した特別代理人が未成年の子の代理人となります(民法826条1項)。
利益相反行為とは、「行為の外形から、一般的、客観的に判断して、子供の利益が害される危険がある」行為であるとされているところ(最判49・7・22家 月27巻2号69頁)、遺産分割に関する手続きは、相続人全員で被相続人の遺産をどのように分割して取得するかという点で、客観的に相続人間の利害が対立 する構造を持っています。
したがって、現実に相続人間で遺産分割協議がまとまっており、争いが生じていないとしても、遺産分割に関する手続きは利益相反行為に該当しますので、相続人の間に未成年者がいる場合には、その未成年者について特別代理人の選任が必要となります。
特別代理人の選任を受けるには、「特別代理人選任申立書」に必要事項を記載し、特別代理人の選任を受ける子の住所地の家庭裁判所に申し立てることになります(家審規67条・60条)。
以上のとおり、あなたが子供達に代わって遺産分割協議書に署名・押印することは利益相反行為ですから、有効に遺産分割協議を行うために は、家庭裁判所に特別代理人の選任申立を行い、子供1名につき各1名ずつ選任された特別代理人2名が子供達に代わって署名・押印する必要があります。

(2)について
あなたの行為は、子供達2名の代理権がないにもかかわらず、子供達2名を代理して、遺産分割協議に署名・押印したのですから、無権代理行為(民法113条)として、遺産分割協議は無効となります。
裁判例でも、特別代理人の選任をせずになした遺産分割審判は無効であるとした東京高裁の決定(東京高決昭和58・3・23家月36巻5号96頁)があります。
この裁判例は、自分も相続人である養母が、未成年の子2名について特別代理人の選任をしないままに自らと同じ代理人(弁護士)を子らの代理人として遺産分割審判手続を行ったという事案に関するものでした。
したがって、子供達の特別代理人選任を受けたうえで、あなたと子供達の特別代理人2名の計3名で遺産分割協議をやり直す必要があります。
もっとも、現在子供達2名が成人し、遺産分割協議内容について納得して了承する意思表示をした場合、無効であった遺産分割協議は、相続開始時に遡って有効 となります(この手続きを法律上「追認」と言います(民法116条))ので、遺産分割協議をやり直す必要はありません。

(3)について
あなたは遺産分割協議に関し、一人の弁護士を自分と子供達2名の代理人とすることはできません。この弁護士は利益が相反する者双方の代理人であり、民法826条1項が子供の利益のために特別代理人を選任することを定めた趣旨に反するからです。
したがって、子供達2名の利益を守るために、やはり特別代理人の選任が必要になるのです。
もっとも、あなたと子供達の特別代理人2名の3名全員が意思を一つにし、一名の弁護士を三名の代理人として選任し、遺産分割協議をすることは可能です(前記東京高決昭和58・3・23家月36巻5号96頁)。
この場合も双方代理(民法108条本文)として、当事者の一方の利益を守ると他方が害される危険があるため、1名の弁護士が三者(あなたと各特別代理人) の代理人となることは原則できないのですが、三者が1名の弁護士を代理人とすることを許諾している場合は、1名の弁護士が三者の代理人となることができま す(民法108条但書)。
ただ、遺産分割協議を行う中で、三者の利害が対立してきた場合、委任された1名の弁護士は、以後三者の代理人となることはできず、辞任することになりま す。したがって、あなたが1名の弁護士を三者の代理人として遺産分割協議を行う場合には、今後あなたとあなたの子供達2名との間で、利害が対立する恐れが ないか、その弁護士とよく相談する必要があるでしょう。

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