1 遺留分権利者と遺留分割合
遺留分とは,被相続人の財産のなかで,法律上その取得が一定の法定相続人に留保されており,被相続人が自由に処分できない一定の持分のことを指します。被相続人の子は遺留分権利者であり,その遺留分割合は,法定相続分の2分の1とされています(民法1028条)。したがって,ご質問の場合のように,母の相続人が子二人である場合の,子の遺留分は4分の1(2分の1×2分の1)となります。
2 遺留分の放棄
遺留分権利者は,その権利を行使することもできますし,行使せずにそのまま放置することもできます。遺留分の権利を行使することを遺留分減殺請求と呼びますが,遺留分を有するということ(遺留分権利者であること)と,遺留分減殺請求を行なうことは別のことなのです。
(1)相続開始前の遺留分の放棄
そして,遺留分権利者は,相続開始前に,自己の遺留分を放棄することもできます。
もっとも,無制限に遺留分の放棄を認めると,被相続人等からの不当な圧迫により,意思に反して遺留分を放棄させられる恐れが生じます。そこで,法は,相続開始前の遺留分の放棄には,家庭裁判所の許可を要件としました(1043条1項)。
なお,家庭裁判所で許可を受けて,遺留分の放棄が確定した後でも,そののちに,家庭裁判所が遺留分放棄を認めた背景事情が変化し,遺留分の放棄状態を維持することが客観的に見て不合理となった場合は,家庭裁判所は,遺留分権利者の申立により,職権で審判を取り消すことができます。
(2)相続開始後の遺留分放棄
相続開始後には,家庭裁判所の許可を要せず,自由に遺留分を放棄することができます。なお,この場合は,遺留分の放棄という積極的な行為をしなくても,単に遺留分減殺請求をしないことによって,放棄と同様の効果が得られます。
3 ご質問について
ご質問では,姉が今後母と同居して面倒を見るという前提で,相続開始前に妹が家庭裁判所の許可を経て遺留分を放棄しています。しかし,その後,姉が母を虐待にするに至り,現在では妹が母を引き取り,既に10年以上も介護しています。
家庭裁判所が妹の遺留分放棄を認めた背景事情は,姉の母に対する同居介護が続くという前提にあると思われますが,その前提は,わずか半年後の姉の虐待により崩れ去り,妹が一人で母を介護するに至ったという大きな事情の変化があります。これは,遺留分の放棄状態を維持することが客観的に見て不合理な場合にあたる可能性が十分にあります。
妹としては,こうした事情を主張し,家庭裁判所に対して遺留分放棄の許可を取り消すように申し立てるべきです。許可審判の取消しによって,遺留分放棄の効果を失わせることができます。
「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院