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特別受益となる財産につき、評価額に変動があった場合(特別受益の評価基準時)

特別受益となる財産につき、評価額に変動があった場合(特別受益の評価基準時)

Q

母が3千万の預金を残して亡くなりました。相続人は長男の私と次男です。私は母の生前,母の1千万円相当の土地を住宅建築用に譲り受け,家を建てて住んでいました。その後,近隣に道路開発計画が持ち上がり大幅に値上がりした時点で,4千万円で売却しています。現在の価値は3千万ほどだそうです。この贈与は特別受益にあたると思うのですが,どの時点での価値を計算すればよいですか。

A

1 特別受益と持ち戻し計算
 民法は,共同相続人の一部が被相続人から遺贈または一定の生前贈与を受けた場合,その受益の限度でその者の相続分を減少させることで共同相続人間の実質的公平を図っています。これが特別受益の持戻し制度です。特別受益にあたるのは,すべての遺贈と,「婚姻・養子縁組のため」の贈与と「生計の資本として」の贈与です(民法903条)。
 特別受益にあたる贈与があった場合,この贈与額を遺産の額に加算した額に,各相続人の相続割合を乗じると各相続人の「一応の相続分」が算出できます。特別受益を受けた者(特別受益者)についてはこの一応の相続分の額から特別受益分を控除した残額を「具体的相続分」(現実に受け取る分)とし,特別受益者以外の相続人は「一応の相続分」をそのまま「具体的相続分」とします。
 
2 贈与財産に価値変動があった場合
 贈与財産には不動産や有価証券のように価値が変動し易いものも含まれるうえ,贈与時期が何十年も前であれば現金についても貨幣価値の変動が考えられます。こうした場合の贈与額の評価は贈与時ではなく相続開始時を基準とし,贈与財産の価値を相続開始時の価値に評価し直して(不動産価額や物価の変動を考慮して)加算額を決定します。
 また,贈与を受けた財産を受贈者(贈与を受けた者)が相続開始までに毀損したり売却することもあり得ます。このように「受贈者の行為」によって贈与物が消滅したり,価格が増加(贈与時の評価額よりも高く売却したために利益が出た場合),または減少(毀損した場合や,安く売りさばいて損が出た場合)した場合,こうした価格変動分は無視するものとされています(民法904条)。
つまり,贈与物は,相続開始時点でも贈与時の状態で存在するものと仮定して,相続開始時点での評価額を持ち戻し額として計算するのです。
もっとも,贈与物の滅失や減価等が不可抗力による場合には,算定の際に配慮すべきものとされています(同条反対解釈)。

3 ご質問について
 ご質問では,母から長男に生前贈与された土地の価値が,贈与時1千万円,売却時4千万円,そして,相続開始時には3千万円と変動し,現在は受贈者の手元には存しない状態です。
上記の通り,贈与物が,不可抗力を除く「受贈者の行為」によって滅失したり,価値が増減した場合でも,相続開始時点でも贈与物が現状のまま存在するものと仮定し,相続開始時点での価値を基礎としなければなりません。
 したがって,この土地は相続時点で3千万円の価値をもって長男のもとに存在するものと仮定して,次のように持ち戻し計算を行います。
 まず,贈与物の価値3千万円を遺産(預金)額3千万円に加算した6千万円がみなし相続財産です。これに,各相続人の相続割合である各2分の1を乗じると,一人あたりの一応の相続分は3千万円となり,特別受益者でない次男は,この3千万円が具体的相続分です。特別受益者は特別受益額を控除するので,長男は3千万円-3千万円=0円となり,長男の具体的相続分はゼロ,母の遺産から受け取るものは無いということなります。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版

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