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遺産の具体的分け方(現物分割・代償分割・換価分割・共有分割)

遺産の具体的分け方(現物分割・代償分割・換価分割・共有分割)

Q

夫が亡くなり,相続人は妻の私と夫の兄妹の計3人です。遺産は夫婦で住んでいた自宅マンション(3500万円相当)と預金500万円です。私はできれば自宅マンションを取得してこのまま住みたいのですが,兄妹はマンションの価値が預金に比べて大変大きいので,私が不動産を取得するのは不公平だと言って納得しません。私は現在2000万円の預金がありますが,不公平にならずにうまく遺産分割する方法はありませんか。

A

1 遺産分割の方法
遺産分割の方法は,大きく分けると,①現物分割,②代償分割,③換価分割,④共有分割の4種類があります。当事者間の協議や調停で合意が形成できる場合には,どの方法を選ぶかは当事者間の自由です。当事者間の合意が得られない場合には家庭裁判所の審判によって分割方法を定めることになりますが,この場合の選択優先順位は,まず①現物分割を検討し,それが相当でない場合には②代償分割を検討し,代償分割もできない場合に換価分割を検討し,これも相当でない場合の最終手段として共有分割が選択されます(最決昭和30・5・31民集9・6・793,大高決平成14・6・5家月54・11・60)。また,家庭裁判所が分割方法の相当性を判断する際には,遺産に属する物または権利の種類及び性質,各相続人の職業・経済状態,相続開始前からの遺産の占有利用状況,遺産の有効利用の可能性,被相続人の意向等を総合的に考慮して決定します。

2 現物分割とは
現物分割とは,個々の財産の形状や性質を変更することなく分割することをいいます。遺産分割は,できる限り現物のままで相続人に承継させるのが望ましいという観点から,現物分割は遺産分割の原則的方法とされています。もっとも,一戸の建物,一個の動産などのように,対象物そのものを現物分割すると現状が著しく損なわれ価値を喪失させる場合や,現物分割自体が困難な場合もあります。こうした場合,現物分割に代えて代償分割という方法をとることが考えられます。

3 代償分割とは
代償分割とは,一定の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させたうえ,他の相続人に対する債務を負担させる方法です。上記のとおり,遺産分割の原則は現物分割ですので,代償分割は次に挙げる「特別の事由」がある場合に限られます(家審規109条)。
ア 現物分割が不可能な場合
イ 現物分割をすると分割後の財産の経済的価値を著しく損なうため不適当である場合
ウ 特定の遺産に対する特定の相続人の占有,利用状態を特に保護する必要がある場合
エ 共同相続人間に代償金の支払によることについて,おおむね争いがない場合
 これに加えて,債務を負担することになる相続人にその資力があることが当然の前提となります。したがって,債務を負担する相続人は,債務を履行できる程の資力を証明する資料(預金残高証明書,通帳の写し,融資証明書等)を提出しなければなりません。遺産分割成立後に債務不履行(不払い)があってもこれを理由に遺産分割を解除することはできないというのが現在の実務取扱いですので,現実に債務者が支払いできるかを,遺産分割成立前に吟味する必要があるのです(最決平成12・9・7家月54・6・66)。

4 換価分割とは
現物分割も代償分割も選択できない場合には,換価分割の方法が考えられます。
「換価分割」とは,遺産を売却等で換金(換価処分)した後に,換金価額を分配する方法です。具体的には,当事者間の協議による任意売却,家庭裁判所の命令で行われる中間処分としての換価(家審15条の4,家審規107条以下),同様に家裁命令でなされる終局処分としての換価(家審15条の4)があります。

5 問いに対する回答
 問いのケースでは,夫が死亡し妻と夫の兄妹が相続人です。各相続人の相続割合は,妻が4分の3,兄妹がそれぞれ8分の1ですので,遺産総額4000万円にこの割合を乗じた結果,妻が3000万円,兄妹がそれぞれ500万円ずつ取得することになります。とすると,妻が3500万円相当のマンションを単独で取得すると法定相続分を超えますので,兄妹が不公平だと主張する根拠はこの点にあると思われます。そこで,遺産分割の方法を検討すると,マンションの区分所有権を分割取得することは通常マンション規約で禁じられていますし,現実に分割して登記を行うことも困難です。したがって,現物分割ができない場合として,代償分割の方法を考えることになります。
 代償分割の場合,相続割合を超過した財産を受け取る相続人である妻が,他の相続人に超過分を支払うべき債務を負うため,その債務相当額の資力が必要です。妻は現在債務額を超える預金があるので,その預金通帳や残高証明を提示することで兄妹に資力を示し,代償分割の方法による遺産分割を求めるべきでしょう。当事者間での合意に至らない場合は家庭裁判所の審判を求めることになりますが,問いに表れた事情からすると代償分割が認められる可能性はあると考えられます。

「参考文献」
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版株式会社
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房

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