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遺留分減殺請求の具体的方法

遺留分減殺請求の具体的方法

Q

父が8百万円の預金を残して亡くなりました。相続人は息子の私一人です。私は父の不貞を契機に疎遠になり,母が亡くなった後の父の面倒は叔母たちが協力して行ってきました。父は長年世話になった感謝として,死亡する半年前に叔母Aに対して,亡くなる3か月前に叔母Bに対して,それぞれ5百万円を贈与しました。叔母Cに対しては遺言で5百万円を遺贈すると記しています。私は叔母たちに対して遺留分減殺請求できますか。できるとしたら誰にどのように請求するべきですか。

A

1 遺留分権利者と遺留分割合
 直系卑属の相続人は遺留分権利者ですので(民法1028条)息子は遺留分を侵害された場合,侵害者に対して遺留分減殺請求を行うことができます。
また,直系卑属が相続人の場合の遺留分割合は,法定相続割合の2分の1です(民法1028条,1044条,900条,901条)。問いのケースのように,父が死亡して相続人が子一人の場合,子の法定相続割合は10割ですので,これに2分の1を乗じた結果,遺産の2分の1が息子の遺留分割合となります。

2 具体的遺留分額の算出
 具体的に遺留分として取得できる財産(遺留分額)は,遺留分算定の基礎となる財産に,上記のとおり算出された遺留分割合を乗じて算定します。遺留分算定の基礎となる財産とは,被相続人が相続開始時に有した積極財産の価額から債務全額を控除し,さらに次の条件をみたす被相続人による贈与(処分)財産額を加えて算出します(民法1029条)。
① 相続開始前の1年間にされた贈与(民法1030条)
② 贈与当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与(民法1030条)
③ 不相当に安価でなされた有償処分(民法1039条)
④ 婚姻・養子縁組費用・生計の資本としての相続人への贈与(民法1044条,903条1項)
ご質問のケースで,父死亡の半年前になされた叔母Aへの500万円贈与と父死亡3か月前になされた叔母Bへの500万円の贈与はいずれも①に該当します。したがって,叔母ABへの贈与額計1000万円はいずれも遺留分算定の基礎財産に加算します。他方,叔母Cに対する500万円の遺贈はまだ実行されておらず父名義の預金800万円に含まれています。したがって,叔母ABへの贈与分と異なり,改めて遺産に加算する必要はありません。
以上より,遺留分算定の基礎財産は叔母ABに対する贈与の合計額1000万円を遺産の800万円に加算した額である1800万円となり,この額に上記2で得られた遺留分割合である2分の1を乗じた結果である900万円が息子の遺留分額となります。

3 遺留分減殺侵害額の算出
 遺留分減殺請求が可能となるのは,相続人の遺留分が侵害されている額(遺留分侵害額)に限られます。
遺留分侵害額は,相続人の遺留分額から,相続で取得する財産額を差し引いて算出します。この計算では,遺贈額は差し引いた上で相続人の取得分を計算します。問いのケースでは,相続開始時の父名義預金800万円のうち遺贈にあてられる500万円を差し引いた300万円が息子の取得分です。この300万円を遺留分額900万円から差し引いた600万円が息子の遺留分侵害額です。

4 遺留分減殺請求の順序
 遺留分侵害額を遺留分を侵害している相手方に対して請求することを遺留分減殺請求といいます。遺留分減殺請求にはその順序が法定されています(民法1033条~1035条)。
① 遺贈(遺贈が複数ある場合は遺贈目的物の価額に応じて減殺)
② 後になされた贈与(被相続人死亡時に近いほう)
③ 前になされた贈与(被相続人の死亡時に遠いほう)
 問いのケースで,長男の遺留分侵害600万円を上記順序にあてはめると,まず①叔母Cへの遺贈から500万円を回収し,次に,残りの100万円を,父の死亡時により近い死亡3か月前の叔母Bへの贈与から回収することになります。

5 遺留分減殺請求権の行使方法
 遺留分減殺請求権の行使は,裁判による必要はなく裁判外での遺留分減殺を求める意思表示で足ります。もっとも,相手方がこれに応じない場合には家庭裁判所に調停を申し立て,調停で合意に至らない場合には通常の民事訴訟によって解決することになります。
以上より,問いのケースでは,息子が叔母Cに対し500万円,叔母Bに対し100万円の遺留分減殺請求の意思表示を行い,相手がこれに応じない場合には家庭裁判所の調停を申し立てます。調停で合意が得られなければ民事訴訟で叔母BCを被告とする金員支払請求訴訟を提起して解決を試みることになります。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版

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