Q
父が死亡し,相続人は長男の私と次男との2人です。葬式の後,「祭祀財産は長男に引き継がせる」という内容の遺言が出てきました。私は狭い団地住まいで,大きな仏壇を引き取るのは大変ですし,仮に引き取ったとしても,多忙な毎日で,先祖供養の儀式などを十分に執り行っていける自信がありません。遺言に反して次男に祭祀財産を承継させることはできますか。
Q
父が死亡し,相続人は長男の私と次男との2人です。葬式の後,「祭祀財産は長男に引き継がせる」という内容の遺言が出てきました。私は狭い団地住まいで,大きな仏壇を引き取るのは大変ですし,仮に引き取ったとしても,多忙な毎日で,先祖供養の儀式などを十分に執り行っていける自信がありません。遺言に反して次男に祭祀財産を承継させることはできますか。
A
1 祭祀財産(系図,祭具,墳墓)の承継
祭祀財産とは,系譜(家系図など),祭具(仏壇,位牌など),墳墓(墓石,墓碑など)の三種類のものを指しています。これら祭祀財産は,「祖先の祭祀の主宰者」に帰属すると定められており,遺産分割の対象にはなりません(民法897条)。したがって,相続分や遺留分,特別受益等の問題とも無関係です。
2 祖先の祭祀の主宰者
祖先の祭祀の主宰者は,第一には,被相続人の指定により,第二に慣習により,第三に,家庭裁判所の審判によって決します。祭祀主宰者は必ずしも相続人や親族関係者である必要はありません。
祭祀主宰者とされた者は,承諾の手続きもなく当然にその地位につき,権利を放棄したり,辞退することはできません。ただし,主宰者となったからといって,祭祀を執り行う義務を負うわけではなく,ただ,祭祀財産を承継する地位に就くに過ぎず,承継した財産を処分することも自由です。
なお,祭祀主宰者に複数の者が就任することは可能であり,祭祀財産を分割して承継することは認められています。
3 遺骨の取扱い
祭祀財産と異なり,遺骨については,その取り扱いや帰属を定めた法律上の規定はありません。
判例は,慣習上の祭祀主宰者に帰属するとしていますが(最判平成元年7月18日家月41・10・128),慣習上の祭祀主宰者が誰であるかは,個別具体的な事情のもとで慎重に判断する必要があり,定型的な判断基準は存しない状態です。参考としては,亡き夫の遺骨の所有権が,その遺骨を納めた墓を管理する夫側の親族と,妻との間で争われた事件で,婚姻夫婦を家族単位とする民法の法意と近時の我が国の慣習を根拠に,亡き夫の遺骨は原始的に妻に帰属すると判断した事案があります(東京高判昭和62年10月8日判時1254・70)。
なお,これらの判例も,遺族間の合意によって遺骨を分けること(分骨)を禁じる趣旨ではなく,遺産分割協議や,遺産分割調停の場でこの点を協議することも可能です。
4 ご質問について
上記のとおり,祭祀財産の承継者は,遺言に指定がある場合はその指定によって定まり,指定された者が,祭祀財産の承継者としての地位を拒むことはできません。
もっとも,祭祀財産を承継しても,その祭祀財産を処分することはできますので,住宅事情に合わない仏壇を処分したり買い換えるなどの行為は自由にできます。
また,祭祀を執り行う義務もありませんので,多忙により供養の儀式ができなくとも祭祀承継者としての務めを果たせないというわけではありませんので,その点は安心してください。
「参考文献」
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部編『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
足立敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版