Q
父が亡くなり,子4人が相続人,遺産は9千万円の預貯金です。遺産分割協議の中で相続人が次のような事情を特別受益にあたると主張しています。それぞれの取り分はいくらになるのかを教えてください。
1 父が生前,長女に結婚支度金として500万円を贈与した。
2 父が生前,次女に結婚式の費用として300万円を贈与した。
3 父が生前,三女にエステサロン開店費用として500万円を贈与した。
4 父が遺言で,四女に1500万円を贈与した。
Q
父が亡くなり,子4人が相続人,遺産は9千万円の預貯金です。遺産分割協議の中で相続人が次のような事情を特別受益にあたると主張しています。それぞれの取り分はいくらになるのかを教えてください。
1 父が生前,長女に結婚支度金として500万円を贈与した。
2 父が生前,次女に結婚式の費用として300万円を贈与した。
3 父が生前,三女にエステサロン開店費用として500万円を贈与した。
4 父が遺言で,四女に1500万円を贈与した。
A
1 特別受益と持ち戻し
被相続人が生前,相続人に対して贈与を行ったり(生前贈与)遺贈をした場合,相続の際に生前贈与や遺贈を受けた相続人が他の相続人同様に通常の相続分を受け取ると不公平が生じます。この不公平を避けるため,相続人が受けた一定の特別な利益授与を相続分の前渡しと評価し,授与された利益を相続財産に加算し相続分を算定する必要があります(民法903条)。この一定の特別な利益を「特別受益」と呼びます。
2 特別受益にあたる行為
特別受益には遺贈と生前贈与とがあります。遺贈とは,遺言によって遺言者の財産の全部又は一部を無償で相続人に譲渡することを言い,すべての遺贈は目的に関わらず特別受益です(民法903条)。他方,生前贈与はその目的によって特別受益にあたるか否か分けられ,「婚姻・養子縁組のための贈与」と「生計の資本としての贈与」のみが特別受益として持ち戻しの対象となります(同条)。ご質問のケースでは,「特別受益とは」にてご説明したとおり,1と3が生前贈与として,4が遺贈としての特別受益に該当します。
3 計算の方法
遺贈と,特別受益にあたる生前贈与を遺産に加算した結果が「みなし相続財産」です。これを基礎に,各共同相続人の相続分を乗じて各相続人の「一応の相続分」を算定し,この額から特別受益を受けた者(特別受益者)についてはこの額から特別受益分を控除した残額が特別受益者の「具体的相続分」(現実に受け取る分)となります。特別受益を受けていない相続人は「一応の相続分」がそのまま「具体的相続分」となります。
4 問いの検討
具体的相続分の計算方法は次の通りです。
まず,長女への生前贈与500万円と三女への生前贈与500万円を遺産に加算する必要があるので,これらの額を遺産9千万円に加算すると1億円となります(みなし相続財産)。四女の遺贈については,まだ四女が遺贈分を受け取っていないため,持ち戻しの必要はありません。
みなし相続財産に,各相続人の相続割合(問いの場合,子4人が各々4分の1)を乗じると,一人あたりの相続分は2500万円です(一応の相続分)。特別受益を受けていない相続人である次女は,この2500万円がそのまま具体的相続分です。特別受益者については受益額を「一応の相続分」から控除しますので,長女は2500万円-500万円=2000万円,三女は2500万円-500万円=2000万円,四女は2500万円-1500万円=1000万円が具体的相続分です。なお,四女は,遺贈額1500万円を受け取る権利があるので,結局は2500万円を取得します。
このように,持戻し計算の結果,相続人間の公平が実現されることになります。
「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版