最高裁平成13年11月22日判決をベースにした設例です。
民法423条1項は「債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。」と定めています。 これを「債権者代位権」といいますが、この条文からすると、あなたは1000万円の貸金債権を保全するために、債務者であるAさんが有する遺留分減殺請求 権を行使することができそうです。
しかし、この民法423条1項はただし書で「ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。 」としています。問題は、遺留分減殺請求権がこの「債権者の一身に専属する権利」と言えるかどうかです。
この「債権者の一身に専属する権利」は、通常「その権利を行使するか否かが専ら債務者の意思のみに委ねられる権利」(行使上の一身専属権)と解されており、例えば、慰謝料請求権などが該当すると解されています。
この点について、下級審判例や学説は解釈が分かれていましたが、最高裁平成13年11月22日判決は
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができない
としました。
理由はいくつか述べられていますが、
(1) 遺留分減殺請求権を行使するかどうかは、もっぱら遺留分権利者の自律的決定にゆだねられており、遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、行 使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり、民法423条1項ただし書にいう「債権者の一身に専属する権利」に当たる。
(2) 債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、これを共同担保として期待すべきではないから、このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。
というところが主なものです。
したがって、本件の場合でも、Aさんが遺留分減殺請求権を第三者に譲渡したり、Aさんが遺留分減殺請求権をいったん行使したような場合には、当該遺留分減殺請求権を代位行使することができますが、そのような事情がない場合には、代位行使できないことになります。