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自筆証書遺言が無効の場合でも遺言どおりの効果が生じることがあるのですか

自筆証書遺言が無効の場合でも遺言どおりの効果が生じることがあるのですか

Q

父は入院中、「私にA土地を、弟に金の延べ棒を、妹に絵画を相続させたい、そのために遺言を作りたい」と言いだしました。そこで、父と私たち子ども3人がよく話し合った上で、父がそのような内容の遺言書を作成し、私と弟が証人として署名捺印しました。妹は遺言書に署名捺印こそしなかったものの、父が遺言書を目の前で書くのを見ており、その際、特に文句や意見は言っていませんでした。父は自筆で遺言書を書き上げた上で作成日付を記載しましたが、押印はしませんでした。

後で聞いたところによると、自筆証書遺言に証人は要らないそうですが、父も私たち子どもも法律的な知識が無かったためにこのようなことをしてしまったのです。

しかし、父の死後、突然弟と妹は「この遺言は不公平であり、父の押印を欠くことから、父の意思ではなく、無効である」と主張するようになりました。

父の自筆証書遺言は有効ではないのでしょうか。仮に父の遺言が無効とした場合、私はA土地を貰うことはできないのでしょうか。

A

1  自筆証書遺言の有効性について
自筆証書遺言の項で説明したとおり、自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付及び氏名を自筆し、印を押さなければなりません(民法968条1項)。この要件を 欠く場合、自筆証書遺言は原則として無効となります。これは、遺言者本人に自筆させることで、遺言者の遺言意思の存在や遺言内容についての真意を確保する ためです。また、重要な文書は押印することで文書が完成すると我が国では認識されていることから、文書の完成を担保するという意味で押印を要求しています。
したがって、本件の遺言は自筆証書遺言としては無効となります。

2  死因贈与
しかし、遺言内容が被相続人の真意であるにもかかわらず、形式の不備から一律に遺言を無効とするのは妥当ではないことから、「死因贈与」(民法554条)として遺言内容どおりの効果が認められる場合があります。

死因贈与とは、文字通り、贈与者の死亡によって、贈与の効力が生ずることです。ただし、遺言のように遺言者の一方的な意思表示によってなされるのと違い、あくまでも贈与する人と贈与を受ける人との合意によってなされる必要があります。
裁判例では自筆証書遺言としての形式に不備があり、遺言としては無効であるとされたにもかかわらず、死因贈与が成立するとして、結果的に遺言内容通りの効 果が認められたものがあります(平成19年5月31日東京地方裁判所判決、平成16年9月28日東京地方裁判所判決、平成15年7月9日広島高等裁判所判 決、昭和53年12月22日水戸家庭裁判所審判(家庭裁判月報31巻9号50頁))
これらの裁判例では、贈与者(遺言者)が受贈者に対して直接または間接的に贈与の申し出をし、受贈者も贈与者の申し出に対して明示または黙示に承諾をしたことを認定したうえで、死因贈与の成立を認めています。
具体的には、相続人が、遺言書作成後、遺言書を受贈者に示して自分の財産をすべて受贈者に譲る手続を終えたことを受贈者に話し、受贈者が感謝の意を表して これを受け入れた場合や、受贈者が遺言書の内容を読み聞かされ、遺言書に証人として署名した場合などにおいて死因贈与の成立が認められているのです。
もっとも、遺言が無効とされる全ての場合について、死因贈与として遺言内容どおりの効果が生じるわけではありません。遺言を残した者が、生前に受贈者に対 し、遺言内容どおりの贈与の申し出をし、受贈者がその贈与の申し出に対し承諾をするという双方の意思の合致がなければ、遺言内容通りの効果は生じないのです。
たとえば、平成17年3月9日東京地方裁判所判決は、相続人が、貯預金の払戻金を受贈者に渡した上で、「お寺のことや後々のことを頼む、足らなかったら 言ってくれ」と発言したケースですが、その発言だけでは「交付した現金について、上記の費用を賄った後に残額が生じた場合に、被告がこれを自由に費消して 構わないとの意思が、明示的にも、黙示的にも表示されていると認めるに足りる証拠はない。」とした上で、死因贈与契約の成立を認めていません。
これら一連の裁判例を見ると、死因贈与にあたると想定される内容が生前の被相続人と受贈者との関係から見て合理的かどうか、被相続人と受贈者の実際の言葉のやりとりなどから死因贈与契約の成否が決せられると思われます。

3 本件での回答
以上より、本件では、お父さんの作成した遺言は押印を欠いているため、自筆証書遺言としては無効になります。
しかし、お父さんが遺言作成時にあなたに対して、A土地を譲り渡すことを伝え、あなたもこれを承諾することをお父さんに伝えていたこと、あなたも弟さんも 遺言書に証人として署名しており、妹さんも遺言書の内容を読み聞かせて貰ってその際に特に文句を言っていない、ということですから、死因贈与が成立してい たものとして、結果的にあなたはA土地を取得することができるということになるものと思われます。

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