最判昭和52・9・19(家裁月報30・2・110)及び最判昭和54・2・22(家裁月報32・1・149)をベースにした設問です。
遺産の一部を共同相続人全員の合意のもとに処分した場合、その売却代金は遺産の代償物として遺産分割の対象となるのか、それとも遺産から逸出して各相続人が個別に取得することになるのか、という問題です。
前者だとすると、あなたは遺産分割が終了するまで長男Aに対して不動産売却代金の支払を求めることは出来ませんし、後者だとすると、あなたは長男Aに対し、民法646条の定める受任者の受取物引渡義務の履行として売却代金の支払を求めることが出来ることになります。
この点について最判昭和52・9・19(家裁月報30・2・110)は「共同相続人が全員の合意によって遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に 売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができるものと 解すべき」としています。さらに最判昭和54・2・22(家裁月報32・1・149)は、この判例と同種の事案において「共有持分権を有する共同相続人全 員によって他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産 分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相統人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである」 としています。
本件においては、昭和54年の最高裁が言うような「特別の事情」も無いようですから、不動産の売却代金は相続財産には加えられず、あなたは長男Aに対して不動産売却代金のうち自己の法定相続分に相当する部分について請求をすることができる、ということになります。
なお、ご相談のケースでは、遺産の処分が共同相続人全員の合意によってなされたものでしたが、遺産を共同相続人のうち一人が無断で売却し、その結果他の相続人が損害を被った場合はどうでしょうか。
この点、遺産分割前に共同相続人の一人が他の相続人に無断で相続財産中の株式を売却し、買主がこれを善意取得した場合、他の相続人は、遺産分割手続を経る ことなしに、その相続分に応じて株式を売却した相続人に対する不法行為による損害賠償請求権を取得する、とした裁判例があります(福岡高裁那覇支判平成 13・4・26判時1764・76)。
この裁判例は、相続人の1人が勝手に遺産を売却した場合であっても、上記「共同相続人全員の合意がある場合」と同様、第三者への売却によって当該財産が相続財産から逸出したことには変わりはないとしてそのような結論を導いています。