1 相続財産の担保責任
遺産分割がされて各共同相続人が財産を取得した後になって,取得した財産に何らかの欠陥(「瑕疵」といいます)があるために遺産分割時に予定していた価値が存せず,共同相続人間で実質的な不公平が生じる場合があります。具体的には,取得した建物に重大な欠陥があり使用価値を欠く場合,取得した土地が他人物であった場合や借地権等の権利が付いていた場合,債権が回収不能であった場合等が考えられます。
こうした場合,瑕疵ある相続財産を取得した相続人は,他の共同相続人に対して担保責任を追及することができます。具体的には滅失した価値につき他の共同相続人に金銭的な支払いを求めることができるのです(民法911条)。
2 共同相続人の負う担保責任の内容
民法911条は,共同相続人の担保責任割合につき,遺産分割協議で定めた自己の「相続分に応じて」担保責任を負うと定めています。「相続分に応じて」とは「瑕疵がなければ遺産分割の結果として各共同相続人が取得した財産の価額に応じて」と理解されています。
ご質問の場合ですと,各人が負う担保責任額は,長男が750万円,兄が375万円,弟が375万円ですので(計算の詳細は1.046をご参照ください),三男は,山林の瑕疵に関し,長男に対して750万円を,次男に対して375万円を支払うよう求めることができます。
3 共同相続人間に無資力者がいる場合の処理
瑕疵ある相続財産を取得した者が他の共同相続人に担保責任を追及できるとしても,追及相手である共同相続人に現実の支払い能力がなければ,その者(無資力相続人)から金員を回収することは不可能です。
この場合,担保責任を追及する相続人と,無資力相続人以外の共同相続人とが,それぞれの相続分に応じて回収不能分を負担します(民法913条本文)。
ほかに共同相続人がいなければ(質問の場合で,長男が存在せず相続人が次男と三男の二人だった場合),残念ながら回収方法はありません。
3 ご質問について
ご質問の場合,無資力である次男から回収できない金額は上記のとおり375万円ですから,この額を,長男と三男とで,相続分(2:1)に応じて負担させると,長男の負担額は250円,弟の負担額は125万です。したがって,三男は長男に対し250万円の支払いを求めることができます。
なお,仮に担保責任を追及する相続人(この場合の三男)が早期に支払いを求めていれば,他の共同相続人(次男)からの回収が可能であったにもかかわらず,過失によって請求しなかったために回収不能となった場合には,回収不能の責任は専ら早期の責任追及を怠った相続人にあると考えられます。したがって,この場合は,他の(資力のある)共同相続人(長男)に回収不能分の負担を求めることはできません(民法913条但書)。
ご質問で,次男が投資によって無資力になる前に三男が責任追及可能であったのに,漫然とこれを放置して請求しない間に次男が無資力となった等の事情があれば,次男は長男に対し250万円を請求できません。
「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部『Q&A相続・遺言110番第3版』民事法研究会