Q
父が亡くなり,遺言が3通発見されました。
1)平成18年1月1日付けで,公証役場で作成した公正証書遺言
2)平成19年1月1日付けで,自筆で書いて署名押印した遺言書
3)平成21年1月吉日付けで,自筆で書いて署名押印した遺言書
いずれも,父名義の土地建物や預貯金の分配に関するもので,すべて内容が異なっています。どの遺言に従って遺産分割手続きをするべきでしょうか。
Q
父が亡くなり,遺言が3通発見されました。
1)平成18年1月1日付けで,公証役場で作成した公正証書遺言
2)平成19年1月1日付けで,自筆で書いて署名押印した遺言書
3)平成21年1月吉日付けで,自筆で書いて署名押印した遺言書
いずれも,父名義の土地建物や預貯金の分配に関するもので,すべて内容が異なっています。どの遺言に従って遺産分割手続きをするべきでしょうか。
A
1 自筆証書遺言と公正証書遺言
遺言者が誰にも知られず自ら作成する遺言を「自筆証書遺言」と言います。自筆証書遺言が形式的に有効であるためには,遺言者がその全文,日付及び氏名を自書し,これに押印して作成することが必要です(民法968条)。また,作成の日付は,その記載によって特定できることが遺言の有効要件となっています。したがって,「満80歳の誕生日」といった記載でも,特定の日付が特定できるため有効である一方,「平成20年3月」,「平成22年初秋」のように具体的な日が特定できない記載は,遺言自体が無効になります。
「公正証書遺言」とは,遺言者が2名以上の証人立会いのもとで遺言の内容を公証人に伝え,公証人がこれを筆記し,遺言者と証人に読み聞かせ,遺言者・証人・公証人が署名押印して作成する遺言をいいます(民法969条)。
2 遺言の優劣
遺言の方式としては,自筆証書遺言,公正証書遺言のほかに,秘密証書遺言(民法970条),死亡危急者遺言(民法976条),伝染病隔地者遺言(民法977条),在船者遺言(民法978条),船舶遭難者遺言(民法979条)があり,それぞれに厳格な有効要件が定められています。これらの遺言の方式間に優劣はありません。
複数の遺言がある場合,作成日が後であるものを優先します(民法1023条)。遺言は遺言者の死後の権利関係を遺言者自身の意思で決定させるためのものですから,死亡時に最も近い意志を尊重するためこのように定められているのです。
3 ご質問について
以上を踏まえると,ご質問の3つの遺言のうち,3)「平成21年1月吉日」と書かれた自筆証書遺言は,有効な日付の記載を欠くため無効です。したがって,有効な遺言は1)と2)であり,このうち,後に作成されたものが優先します。
お父様の遺産分割は,2)「平成19年1月1日付けで,自筆で書かれ署名押印のある遺言」に従って手続きを進めてください。
「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院