Q
3ヶ月前に父が亡くなり,相続人は息子の私一人です。父は,甥が2年前に就職する際に身元保証人になったのですが,先日,甥の勤務先から,甥が1ヶ月前に会社の資金500万円を使い込んだとして,父に弁償を求める文書がきました。甥を問い詰めると会社の言い分は正しいようで,甥は懲戒解雇され一文無しのため,父に請求が来たようです。父は,甥が使い込みをする前に亡くなっていますが,この弁償分は相続人の私が払う必要がありますか。
Q
3ヶ月前に父が亡くなり,相続人は息子の私一人です。父は,甥が2年前に就職する際に身元保証人になったのですが,先日,甥の勤務先から,甥が1ヶ月前に会社の資金500万円を使い込んだとして,父に弁償を求める文書がきました。甥を問い詰めると会社の言い分は正しいようで,甥は懲戒解雇され一文無しのため,父に請求が来たようです。父は,甥が使い込みをする前に亡くなっていますが,この弁償分は相続人の私が払う必要がありますか。
A
1 保証債務と包括相続
保証とは,本来の債務者(主債務者)がその債務を弁済しない場合に,債務者に代わって債務を弁済する義務を負うことをいいます(民法446 条)。したがって,主債務者がその債務を弁済せず,債権者が保証人に支払いを求めた場合,保証人は主債務者に代わって債務を弁済しなければなりません。また,相続とは,被相続人に属した一切の財産上の権利義務を承継するものですから(民法896条),保証債務も相続人に承継されるのが原則です。
2 保証債務の性質
もっとも,保証債務には様々な類型があり,すべてについて相続による承継を認めると被相続人にとって酷な結果になる場合があります。保証の類型としては,①単純な保証債務,②根保証債務,③身元保証の4つがありますが,判例は,保証の類型によって取り扱いを分けています。ここでは,③身元保証についてご説明します①単純な金銭保証債務については1.014,②根保証債務については1.015をご覧ください。
3 身元保証債務
身元保証は,雇用契約上の被用者の債務不履行,不法行為等によって生じる損害賠償債務を保証する将来債務の保証です。身元保証は,通常の保証債務と異なり被用者と保証人間の信頼関係を基礎とする要素が強いため,特別の事情がない限り身元保証人の死亡によって消滅し相続人に承継されません(大審判昭和2・7・4民集6・436)。
ただし,本人が使用者に損害を与えた後に身元保証人が死亡した場合には,既に具体的に損害賠償債務が発生しているいため,通常の保証と同じように相続されます。
4 結論
ご質問の事情を見ると,父が甥の勤務先と交わした保証契約は身元保証契約に該当し,被用者である甥が会社に与えた損害について保証人として賠償するべき地位にあります。
しかし,上記のとおり,身元保証は個人的信頼関係を要素とする契約ですので,保証人の死亡時点で,既に具体的な損害賠償債務が発生していな限り,原則として相続されません。
ご質問では,甥が使い込みをしたのは保証人が亡くなった後のことですから,保証債務は相続されず,相続人である息子は会社に対して500万円を支払う必要はありません。
「参考文献」
田中章介・田中将『相続と相続税の実例相談200選』清文社
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割の実務』日本加除出版
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版