Q
父が亡くなり,相続人は長女の私と次女の2人です。父は,受取人を「長女A子」(私)と指定する100万円の生命保険と,受取人を「相続人」とする5000万円の生命保険とに加入していましたが,これらの生命保険は,父の遺産に含まれますか。
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父が亡くなり,相続人は長女の私と次女の2人です。父は,受取人を「長女A子」(私)と指定する100万円の生命保険と,受取人を「相続人」とする5000万円の生命保険とに加入していましたが,これらの生命保険は,父の遺産に含まれますか。
A
1 生命保険制度と相続
生命保険金請求権は,その取得が死亡を原因とすることから相続の場面で論じられています。しかし,保険金の受取人は相続人に限られず,保険契約によって個別的に定めることができる点で生命保険制度と相続とは基本的に異なる制度なのです。そして,生命保険には様々な契約類型がありますので,以下に,具体的な取り扱いを示しておきます。
2 生命保険金請求権の相続財産該当性
(1)保険金受取人として特定人が指定されている場合
生命保険金の受取人として,特定人が指定されている場合,受取人は被相続人の権利を承継するのではなく,保険契約から生じる保険金請求権を自分自身の権利として取得します。したがって,生命保険金は遺産分割の対象とはなりません。なお,この結論は,受取人が相続人の一人であっても,相続人以外の第三者であっても同じです。
(2)保険金受取人を単に「相続人」と指定した場合
この場合も,特段の事情のない限り,被保険者死亡の時の相続人である特定の個人を受取人として指定した保険契約と解されるため,保険金は相続財産に含まれません(最判昭和40・2・2民集19・1・1)。なお,保険金の各受取人は,法定相続分の割合による保険金請求権を取得します(最判平成6・7・18民集48・5・1233)。
(3)保険金受取人を被相続人自身と指定した場合
この場合に関する最高裁判例はありませんが,満期保険金請求権については,満期到来により保険金が被相続人の財産となるため,その後の被相続人の死亡により遺産分割の対象となる点に争いはありません。
他方,保険事故(被相続人の死亡)による保険金請求権については,満期保険金同様に相続財産になるという見解が一般的ですが,保険契約者の意思解釈または保険契約の性質を根拠に保険金請求権は相続人の固有の財産となるという見解も有力です。
(4)保険金受取人の指定がない場合
この場合,通常は保険約款で受取人が指定されていますので,約款の定めに従います。保険約款上で相続人に支払う旨が定められている場合は,保険金受取人を相続人と指定した場合(上記(2))と同じ扱いになり,相続財産には含まれません(最判昭和48・6・29民集27・6・737)。
3 ご質問について
ご質問では二つの生命保険が問題となりますが,100万円の生命保険は長女Aという特定人を受取人と指定しているため,上記(1)の場合にあたります。これは長女A自身の権利であり遺産には含まれません。
5000万円の生命保険の受取人は「相続人」ですから,実際の相続人である長女,次女がそれぞれ法定相続分(2分の1)ずつを自分の権利として取得し,これも遺産には含まれません。
なお,生命保険金の取得によっては相続人間の公平が著しく害されるような場合には,保険金請求権を特別受益として持戻しの対象とする必要があります(最決平成16・10・29民集58・7・1979)。生命保険と特別受益の関係については,1.034をご覧下さい。
「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房
東京弁護士会相続・遺言研究部編『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版