Q
夫が突然亡くなり,妻の私と22歳の娘,17歳の息子が残されました。夫の遺産を分割するには遺産分割協議書が必要だと聞きましたが,未成年の息子については,親の私が息子の代理人として遺産分割協議書を作成して問題ないでしょうか。問題がある場合は,どのような手続きが必要でしょうか。
Q
夫が突然亡くなり,妻の私と22歳の娘,17歳の息子が残されました。夫の遺産を分割するには遺産分割協議書が必要だと聞きましたが,未成年の息子については,親の私が息子の代理人として遺産分割協議書を作成して問題ないでしょうか。問題がある場合は,どのような手続きが必要でしょうか。
A
1 遺産分割協議と未成年者の親権
遺産分割手続きは相続人全員の協議によることが必要であり,一部の相続人を除外してなされた分割協議は無効とされています。したがって,未成年者であっても相続人の地位にある以上,遺産分割手続きから除外して協議を進めることはできません。
もっとも,未成年者は民法上財産管理権限が制限されており,遺産分割も未成年者の財産の変動をもたらす重要な行為ですので,親権者である親が未成年者の法定代理人として協議をするのが原則です(民法818条1項,824条)。
2 親子間の利益相反と特別代理人
親権は両親による共同親権が原則ですが(民法818条3項),離婚の場合には離婚後に親権者と定められた親が,父母の一方が死亡した場合には他方の親が,それぞれ親権者として子を法定代理します。ご質問の事情では父が死亡しているため母が一人で息子さんの親権を行使することになります(同但書)。
しかし,ご質問のケースのように,夫が死亡して妻と未成年の子が相続人となる場合,遺産分割協議について妻と子との利害が対立する関係に立ちます。また,例えば,祖父の死亡時にすでに父が死亡しており未成年の孫2名が祖父の代襲相続人となる場合に,母が子2名を代理すると子相互の利益が対立し,子の利益保護の観点から問題があります。
このように,親権者が子を代理することによって,親と子,または子同士の利益が対立が生じる場合には,親権者による法定代理権を制限し,特別代理人という別の人を代理人に選任しなければなりません(民法826条1項2項)。
3 利益相反行為の判断基準と効果
利益相反行為にあたるかどうかは,行為の客観的外形から判断して子の利益を害するおそれがあるか否かによって判断します(形式的判断説。最判昭37・10・2民集16・10・2059)。
そして,遺産分割協議において,共同相続人は同じ遺産を分け合うのですから,一方の取り分が増えれば他方の取り分が減るという関係にあるため,行為の客観的外形からすると子の利益を害するおそれがある行為です。したがって,親と子が共同相続人の関係に立つ場合,そして,一人の親権者が複数の子を代理する場合は,いずれも利益相反行為に該当し,特別代理人の選任が必要です(最判昭和48・4・24判時704・50)。特別代理人を選任せずに行われた遺産分割協議は無効です。
4 結論
ご質問では,母親であるご質問者と未成年者の息子さんがともに父親の共同相続人であるため,遺産分割協議は利益相反行為に該当します。したがって,ご質問者は息子さんの親権者ではありますが,この遺産分割協議に関して息子さんを代理することはできません。まずは,家庭裁判所に特別代理人の選任の申し立てを行い,特別代理人の選任後に,ご質問者,娘さん,そして,特別代理人の3名による遺産分割協議を行ってください。
「参考文献」
島津一郎・久貫忠彦『新・判例コンメンタール13親族4』三省堂
東京弁護士会相続・遺言研究部編『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
東京弁護士会法友全期会相続実務研究会編『遺産分割実務マニュアル』ぎょうせい
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版