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寄与分に該当する行為

寄与分に該当する行為

Q

材木屋を経営していた父が死亡しました。母,長男,二男,長女の4名が相続人です。遺産分割協議の中で,それぞれが次のように述べて寄与分を主張し,協議が進みません。以下の主張は,寄与分として認められるのしょうか。なお,父はここ30年母と2人暮らしで子らはすべて独立しており,遺産総額は2000万円です。

① 専業主婦だった母の,ずっと家事をして夫を支えてきたという主張
② 長男の,父の材木屋を長年手伝ってきたという主張(ただし長男が貢献した売上額よりも高い給料を父からもらっていました)
③ 二男の,父名義の自宅家屋の修理費用200万円を全額出したという主張
④ 長女の,2年前に父が倒れて寝たきりになって以降,病弱な母に代わり毎日5時間介護したという主張

A

1 寄与分の意義我が国は,同順位の相続人の相続分を均等と定めています(均等相続制度)。
この均等相続制度を貫くと,相続人の財産維持・形成に 対する共同相続人の貢献を評価する契機が失われ,結果として共同相続人間の実質的不公平が生じる恐れがあります。これを是正する必要から創設されたのが寄与分制度です。すなわち,寄与分とは,共同相続人の中に,被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者に対し,その寄与分を財産的に評価した相当額を 取得させることで共同相続人間の公平を図る制度をいいます(民法904条の2)。

2 寄与分の要件寄与分が認められるためには,以下の要件を充たす必要があります。

(1) 相続人の寄与行為であること
寄与分は相続人間の公平を目的とするため,寄与分の主張は相続人に限られます。

(2)「被相続人の財産の維持・増加」への寄与であること
寄与分にあたる行為は,あくまで「被相続人の財産の維持または増加」についての寄与に限られ精神的支援は含まれません。他方,財産維持・増加にあたるならばその態様は問いません。民法904条の2は,①被相続人の事業に関する労務提供,②財産上の給付,③被相続人の療養看護,④その他の方法を列挙 し,様々な態様を想定しています。

(3)「特別の寄与」であること
被相続人と相続人との身分関係に鑑み,通常期待される程度を超える貢献が必要です。具体的には,法律で定められた義務の履行(民法752条:夫婦間の協力扶助義務,民法877条1項:親族間の扶養義務等)の範囲内の行為は特別の寄与にあたりません。

(4)寄与行為と被相続人の遺産維持・増加との間に因果関係があること
相続人の行為によって,被相続人の積極財産の減少や消極財産(債務)の増加が阻止されたことが必要です。なお,被相続人の財産が減少した場合でも,寄与行為がなければさらに進行していた財産減少を止めたときは寄与分が認められる可能性があります。

3 問いの検討
以上を踏まえて,問いにあらわれた各主張を具体的に検討しましょう。

① 専業主婦だった母の,ずっと家事をして夫を支えてきたという主張
上記のとおり,寄与行為は「特別の寄与」,すなわち法律上の義務履行を超える程度の貢献であることが必要です。夫婦間には法律上の協力扶助義務があ り,専業主婦の妻が家事を担って夫を支える行為は,一般的には協力扶助義務の範囲内と考えられます。こうした行為を前提として配偶者には2分の1という高 い相続分が認められているのです。したがって,母の主張する行為に寄与分は認められません。

② 長男の,父の材木屋を長年手伝ってきたという主張(ただし長男の貢献した売り上げより高い給料を父からもらっていた場合)

長年家業を手伝うという行為は「家事従事型」の寄与行為にあたります。もっとも,この類型で寄与行為と認められるためには,継続して従事したという 事実(「継続性」)に加え,従事した仕事に対する対価(報酬)を受け取っていないという「無償性」が要件となります。長男は,家業を手伝った対価として自 分が貢献した売上額を超える給料を受け取っていますので,無償性要件を欠き,寄与分の主張は認められません。

③ 二男の,父名義の自宅家屋の修理費用200万円を全額出したという主張
被相続人に財産上の利益を与える行為を「金銭等出資型」と呼び,寄与行為の一類型に位置付けられます。儀礼的な給付(小規模な祝金等)や小遣い程度 は除かれます。自宅改修費用としての200万円は安価ではなく,遺産総額が約2000万円であることにも併せ見ると,二男の200万円の拠出により被相続 人がその支出を免れ,被相続人の財産が維持されたといえます。したがって,二男の主張については寄与分が認められる可能性があります。もっとも,寄与分の 評価時期は相続開始時とするのが多数の裁判例ですので,相続開始時において,当該修理によって現在の家屋の価値を増加させた(または価値の減少を防止した)と認められる分が寄与分として評価されることになります。

④ 二女の,2年前に父が倒れて以降,病弱な母に代わり毎日5時間介護したという主張

被相続人に療養看護が必要な際,相続人が療養看護に従事したことで医療費や介護費用の支出を免れた場合は「療養看護型」の寄与行為に該当します。長 女は独立して別居していたところ,被相続人が寝たきりであった2年間,毎日5時間の介護に通ったという事実からすると,長女の行為により相当程度の介護費 用の支出を免れたと解することも可能です。長女の主張には寄与分が認められる可能性があるでしょう。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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