最高裁判決平成16年4月20日をベースとした設問です。
この事件において、相続財産である預貯金を結果的に独り占めした相続人(当初は遺言に基づいて単独取得したのですが、後に裁判所によって当該遺言が無効と 判断されました)に対して、他の相続人が侵害された自己の相続分につき、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるか、が問題とな りました。
原審である高松高等裁判所は、この点について「同請求は、家事審判事項である遺産分割を求めるものにほかならない」として認めませんでした。
相続財産である預貯金が、不動産や株式等と同じように相続によっても当然に分割されないとすれば、原審の言うとおり、これは民事訴訟ではなく遺産分割調停等によって解決されるべき問題ということになります。
しかし、これまで最高裁は一貫して、相続財産中の預貯金債権は「可分債権」であるとし、「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではない」としてきました(最判昭和29年4月8日)。
そこで、最高裁はこの考え方を前提として「共同相続人の1人が、相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した 場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に 対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」としたのです。
したがって、あなたの場合でも、お母さんとあなたはお兄さんに対して、(家庭裁判所ではなく)地方裁判所における民事訴訟によって、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができる、ということになります。